司法書士の小出亮です。
「遺言」という言葉を聞いたことはあっても、その必要性を深く考えたことがない方も多いのではないでしょうか。
しかし、遺言はご自身や大切な家族や財産を守るための大きな役割を果たします。
今回は、遺言を作成することの意義とその基本的なメリットについて、司法書士の視点から詳しく解説します。
遺言書は、相続が発生した際に、被相続人(亡くなった方)の意思を法的に確実に実現するための重要な書類です。
遺言がなければ、原則、民法で定められた「法定相続」に基づいて遺産は分配されます。
これに従うと、財産は相続人全員に法律で定められた割合で分配されることが原則ですが、法定相続人全員で遺産をどう分けるかの話し合い=遺産分割協議をし、全員が合意することで自由に遺産を分配することができます。
一方で、遺言を作成することで、ご自身の意思を尊重し、相続の流れをスムーズに進めることができます。
また、相続トラブルを防ぐためにも、遺言は有効です。
相続人が複数いる場合、遺産分割の方法について意見が分かれることがあり、それが争いの原因になることも少なくありません。
遺言書を事前に用意しておくことで、被相続人の意思が明確に示され、相続人同士の争いを防ぐ効果が期待できます。
遺言を作成することで得られるメリットは多岐にわたります。
以下に、主なメリットを挙げてみましょう。
法定相続では、相続人に対して一律の割合で財産が分配されます。
しかし、遺言を通じて、特定の相続人に多くの財産を遺すことや、特定の目的に財産を使うよう指定することが可能です。
例えば、子どもたちのうち、一人が親の介護をしてきた場合、その子どもに多くの財産を遺すといった配慮を遺言書で明示することができます。
また、特定の団体や人に寄付を行いたい場合も、遺言書がその意思を実現する手段となります。
例えば、慈善団体への寄付や、親しい友人に財産の一部を遺すといった希望を叶えることができるのです。
法定相続だけでは実現できない、より自由な財産の配分が可能になるのが遺言の大きなメリットです。
相続におけるトラブルは、財産の多い少ないにかかわらず、発生することがあります。
特に、遺言がない場合には、遺産分割協議が必要となり、相続人全員が合意しない限り、分割方法が決まらないことがあります。
この協議がこじれると、相続人間で深刻な対立が生まれ、感情的な争いに発展するケースも少なくありません。
遺言を作成しておくことで、被相続人の明確な意思が示されるため、相続人間での不必要な争いを防ぐことができます。
特に、法定相続とは異なる分配を希望する場合や、複雑な財産構成がある場合には、遺言書がトラブルを未然に防ぐための強力な手段となります。
遺言書があることで、相続手続きが円滑に進むこともメリットの一つです。
特に、相続財産に不動産や株式などの評価が難しいものが含まれている場合、遺産分割協議が長期化することがよくあります。
遺言書がない場合、相続人全員での協議が必要となるため、手続きが複雑になりやすいのです。
一方で、遺言書があれば、相続人間での協議を経ることなく、被相続人の意思に基づいて速やかに相続手続きが進められます。
不動産の名義変更や預貯金の引き出し、株式の移管などがスムーズに行えることで、相続人にとっての負担も大幅に軽減されるでしょう。
遺言書を作成するタイミングについては、一般的にご年配の方が作成するものと思われがちですが、必ずしもそうではありません。
例えば、結婚、子どもの誕生、財産の取得など、ご家族や財産に関わる大きな変化があった場合、遺言書の作成を検討することが重要です。
また、遺言書を一度作成した後でも、家族構成や財産状況が変わった際には、定期的な見直しが必要です。
遺言書が作成時の状況に合っていない場合、意図した通りの相続が実現できないこともあります。
常に状況に応じた遺言書に書き換えをすることも重要です。
遺言作成は専門的な知識が必要な場合も多いため、専門家のサポートを受けながら、確実な形で遺言を作成することが大切です。
自筆証書遺言であれば、簡単に作成できるように思えるかもしれませんが、法的な要件を満たさない場合には無効となる可能性があります。
公正証書遺言であれば、さらに法的に確実な方法で遺言書を作成できるため、司法書士や公証人のサポートを受けることで、安心して遺言書を作成することができます。
遺言の必要性とメリット、タイミングなどについて解説しました。
遺言書は、相続におけるトラブルを未然に防ぎ、あなたの大切な財産や家族を守るための重要な手段です。
遺言書があれば、相続手続きがスムーズに進み、法定相続にとらわれず、ご自身の意思に基づいた財産分割が可能となります。
また、遺言を通じてご家族の将来を配慮することもでき、ご家族に対する思いやりを反映することができます。
将来の安心のために、ご自身の状況によって適切な時期に遺言作成を検討し、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。