【遺言のススメ】~遺言書作成時の注意点とポイント~#9

司法書士の小出亮です。

これまで遺言について様々お話してきました。

遺言書を作成することで、ご自身の意思やご家族への思いやりを形にすることできます。

しかし、適切に作成されていない遺言書は無効になったり、相続人間で争いが起きる原因になったりすることもあります。

今回は、遺言書作成時に気をつけるべき注意点とポイントを司法書士の視点から解説します。
最後に、遺言書作成を成功させるための具体的なアドバイスもお届けします。

1. 遺言書作成時に注意すべき基本的なポイント

遺言書を有効に作成するためには、法律で定められた形式を正確に守ることが不可欠です。

また、相続人や受遺者の誤解を防ぐために、内容の具体性や正確性にも注意が必要です。

以下では、遺言書を作成する際に押さえておきたい重要なポイントを解説します。

(1) 法律で定められた形式を守る

自筆証書遺言を作成する場合、法律に基づく厳格な形式を守らなければなりません。

形式を満たしていない遺言書は無効となり、相続人間でトラブルが生じる可能性があります。以下は、基本的な要件となります。

●全文を手書きすること

本文は遺言者自身が全て手書きで記載する必要があります。

ただし、自筆証書によって遺言をする場合でも、例外的に,自筆証書に相続財産の全部又は一部の目録(以下「財産目録」といいます。)を添付するときは、その目録については自書しなくてもよいことになりました。

財産目録の形式については、遺言者本人がパソコン等で作成してもよいですし、遺言者以外の人が作成することもできます。例えば、土地について登記事項証明書(登記簿謄本)を財産目録として添付することや、預貯金について通帳の写しを添付することもできます。

財産目録が多岐にわたる場合でも、遺言書作成の負担が軽減されるようになっています。

いずれの場合であっても、財産目録の各頁に署名押印する必要がありますので、注意が必要です。

●作成日付を正確に記載すること

例えば「令和〇年〇月〇日」のように、具体的な日付を記載する必要があります。

「〇月吉日」などの曖昧な表現は無効となります。

●署名と押印を行うこと

遺言者本人の署名と押印が必須です。押印には実印でなくても構いませんが、遺言書の信頼性を高めるために実印を用いることをお勧めします。

これらの要件が一つでも欠けると遺言書全体が無効となる可能性があるため、慎重に確認することが大切です。

(2) 財産情報の正確性

遺言書に不動産や金融資産の財産情報を記載する場合、その内容を正確かつ詳細に記載する必要があります。

財産の記載が不正確だと、遺言書の指示に従った相続がスムーズに進まず、相続人間で争いが起きる原因となる可能性があります。

具体的には以下の点に注意してください。

不動産の情報

所在地や地番、持分割合などを正確に記載します。「〇〇市〇〇町〇丁目〇番地」のように、登記事項証明書(登記簿謄本)の情報をそのまま記載することを推奨します。

●金融資産の情報

預貯金の場合は銀行名、支店名、口座番号を明記します。

株式や証券の場合も、銘柄や証券会社の名称、口座番号を詳細に記載してください。

前述のとおり、2019年の法改正以降、財産目録については手書きでなくてもよいとされておりますので、財産情報については、不動産であれば登記事項証明書の写し、預貯金であれば通帳の写しなどを活用しましょう。

正確な財産情報は遺言内容の実現をスムーズにし、相続人間の無用な混乱を防ぐ重要な鍵となります。間違いや記載漏れがあると、相続人がその財産を特定できず、遺言内容の実現が難しくなることがありますので、注意しましょう。


(3) 明確で誤解のない表現

遺言書の内容は、相続人や遺贈を受ける人が誤解しないよう、具体的かつ明確に記載することが大切です。

たとえば「長男に家を相続させる」と記載した場合、遺言書を読む相続人や関係者がどの不動産を指しているのか判断できない可能性があります。
「〇〇市〇〇町〇丁目〇番地の土地」などと詳細に書くようにしましょう。

また、「二男には多めに渡す」「子供たちはできるだけ平等に」などの曖昧な表現は避けましょう。

(4)付言事項を活用

遺言を準備される方には、ご家族の事情や感情を考慮し、特定の相続人に財産を集中させたり、すべての相続人に公平な配分を求めないケースもあります。

このような場合は、他の相続人が遺言内容に納得できるよう、付言事項を活用して具体的な理由や遺言者の思いを補足することが大切です。

付言事項とは?

付言事項(ふげんじこう)とは、遺言書に法的拘束力のないメッセージを付け加える部分を指します。遺言書の本来の目的は、財産の分配などを明確にすることですが、付言事項を活用することで、遺言者の思いや感謝の気持ちをご家族や関係者に伝えることができます。

例(付言事項)

「長男〇〇には、同居してたということもあり、これまで多く支えてもらいました。その感謝の気持ちを込めて、自宅の不動産は長男へ遺します」

「長女には、私の介護を献身的に支えてくれたことへの感謝の気持ちを込めて、特定の財産を相続させることにしました」

このように感謝や思いを記載することで、遺言者の意思も伝えるものとなり、ご家族の感情面での理解が深まることが期待されます。

2.遺言書作成を成功させるための具体的なポイント

遺言書は、遺されるご家族のために遺言者の意思を形にする大切な手段です。確実に実現させるためには、適切な準備が必要です。遺言書を確実に作成し、実現させるためには以下のポイントを押さえておきましょう。

(1) ご家族とのコミュニケーション

円滑な相続のために
遺言書の内容をすべてご家族に伝える必要はありませんが、遺言書を作成する意思や、基本的な考え方を共有しておくことは、トラブルを減らすために有効です。ご家族間の対話が不足している場合、遺言書の内容が意外だったり、不公平と受け取られることで、相続争いにつながることがあります。

具体的なアプローチ

  • 意思の共有:特定の財産を特定の人に渡したい場合、その理由や背景をあらかじめ話しておくことで、遺言書が実行される際の理解が得られやすくなります。
  • 保管場所の通知:自筆証書遺言を作成した場合、その存在と保管場所を信頼できるご家族に伝えておくことで、遺言書が見つからずに無効となるリスクを防ぐことができます。

(2) 専門家のアドバイスを活用する

専門家の介在による安心感
遺言書の内容が複雑な場合や、相続人間でトラブルが予想される場合は、専門家の助言が不可欠です。特に、公正証書遺言を作成する際は、公証人とのやり取りをスムーズにするために専門家のサポートを受けることが大きなメリットとなります。

公正証書遺言作成のメリット

  • 法的適正性の担保:公証人が遺言書の内容をチェックし、法律的に適正な内容に仕上げるため、形式不備で無効になるリスクがありません。
  • 作成過程のサポート:公正証書遺言の作成には、財産の分割方法や遺言内容を具体化する必要があります。専門家が間に入ることで、適切なアドバイスを受けながら効率よく進められます。
  • 証拠能力の高さ:公正証書遺言は公証人が関与するため、偽造や紛失のリスクが低く、遺言者の意思を確実に反映した信頼性の高い書類として扱われます。

具体的な対策

  • 複雑なケースに対応:相続人が多い場合や、遺留分に配慮が必要なケースなどでは、専門家が財産分割方法の提案を行い、トラブル防止に役立ちます。
  • 意思確認のサポート:公証人が遺言者本人の意思を確認するため、遺言の内容が正しく反映され、後々の紛争リスクを最小限に抑えます。

(3) 保管方法の選択と確認

遺言書の確実な管理
せっかく作成した遺言書が紛失したり、意図せず改ざんされてしまうと、相続手続きが滞る原因となります。適切な保管方法を選ぶことで、遺言者の意思を確実に伝えられる環境を整えましょう。

具体的な保管方法

自筆証書遺言の場合

  • 法務局の保管制度を利用することで、紛失や改ざんのリスクを回避できます。また、保管された遺言書は遺言者の死亡後に相続人が法務局で確認できるため、相続手続きがスムーズに進みます。
  • 自宅で保管する場合は、信頼できるご家族に保管場所を伝えておきましょう。

公正証書遺言の場合

  • 公証役場で保管されるため、遺言書が紛失する心配がありません。遺言者の死後、必要に応じて相続人が公証役場で内容を確認できます。
  • 遺言のコピーをご家族や専門家に預けることで、必要時に速やかに内容を確認できるようにしておくと安心です。

まとめ

遺言書は、遺言者の思いを具体的かつ正確に伝えることが最も重要です。

遺言書作成における注意点は、形式の不備や内容の曖昧さ、保管の問題など、多岐にわたりますが、事前の対策で防ぐことが可能です。

遺言書を作成する際には、法的要件を満たすことはもちろんのこと、内容の明確さや定期的な見直しが欠かせません。自分の意思を確実に伝え、ご家族間のトラブルを防ぐためには、専門家のアドバイスを活用しながら慎重に作成・管理することが大切です。

遺言書を作成する際は、ご家族とのコミュニケーション、専門家のアドバイス、適切な保管方法の選択という3つの要素が鍵となります。

これらを実践することで、遺言者の意思が確実に実現し、ご家族のトラブルを未然に防ぐことが可能です。

弊所は、遺言書の作成やチェックを通じて、ご自身の意思やご家族への思いやりを形にするお手伝いをしています。

遺言書作成に不安がある場合や具体的なアドバイスが必要な場合は、弊所へお気軽にご相談ください。